「あの男が!」
「そうですよ。泣いているんですよ」
「きのどくにな。運がわりいんだ。おめえでさえも判じのつく言問だんごを、今まで食わなかったのが運の分かれめなんだ。あの判じ絵のなぞが解けりゃ、こっちへ来たのにな。食いものだってバカにするもんじゃねえよ」
「そうですとも! ええ、そうですよ!」
「つまらねえところへ感心するない! 七造はどうした。それらしい姿もねえか」
「いりゃあ取り逃がす伝六じゃねえんだが、やつがそれじゃねえかと思やみんなそれに見え、そうじゃあるめえと思やみんなそうじゃねえように見えるんでね。まごまごしているうちに、舟がひとりでにここへ帰ってきちまったんですよ。へえ、舟がね」
いっているとき、ちらりと店先へのぞいた顔がある――。二十六、七、旅じたくの中間づくりで、のぞいてはしきりと首をかしげていたが、不思議そうにいう声がきこえました。
「おかしいな。いくら女は身じたくがなげえからって、もう来そうなもんだがな」
「あれだ! 七造だ! とって押えろッ」
とたんに命じた名人の声に、さっと伝六が飛び出したのを、早くも知って七造がまっしぐら。あとを伝六が追いかけて韋駄天《いだ
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