ぜ」
つかみとってくしごと横にくわえると、気も早いが舟も早い。道がまた言問から浅草までへは目と鼻の近さなのです。
ギー、ギー、ギーと急いでいった早櫓《はやろ》が、まもなく、ギー、ギー、ギーと急いでこいでもどってきたかと思うと、
「いけねえ! いけねえ!」
声から先に飛び込みました。
「おそかった! おそかった! だんな、やられましたよ!」
「なにッ。ふたりとも逃がしたか!」
「いいえね、女が、女が、おくにめがね」
「おくにがどうしたんだよ」
「仁王門《におうもん》の前でばっさり――」
「切り口は!」
「袈裟《けさ》だ!」
「敬大将は!」
「まごまごしているばかりで、からきし物の役にゃたたねえんですよ」
伝六、出がけにつかんでいったくしだんごをまだ食べているのです。
「袈裟がけならば、切り手は二本差しだな」
「へ……?」
「黙って食ってりゃいいんだよ。道の奥にゃ突き当たりの壁があるといっておいたが、案の定これだ。追いかけた肝心のおくにが、死人に口なしにかたづけられておったとあっちゃ、敬だんな、さぞやしょげきっていたろうな」
「ええ、もう、歯を食いしばっちゃ、ぽろり、ぽろりとね」
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