した品ではない。亭主の申し立てによると、衣装髪のものに金をかける伊達女といったが、残った品から判断すると、どうやら出かけたときの服装が第一の晴れ着らしいのです――。これは考えようによってこの場合、いろいろのいみを持つ重要なネタでした。晴れ着に装って、このとおりふだん着はじめ手まわりの品々をそっくり残していったところから判断すると、用を足してまたここへ帰ってくるつもりらしくも思われるのです。反対にまた、これらの品々を未練なく捨てておいて、たいせつな晴れ着だけ着用しながら、二度とここへ舞いもどらぬ決心のもとに高飛びしたかとも判定されるのです。
名人の眼光は、しだいに烱々《けいけい》と輝きを増しました。こういう頭脳の推断を必要とするネタ調べになると、むっつり流|眼《がん》のさえは天下独歩、まね手もない、比類もない。
さらに要領を得ないもののごとく、いともぼうぜんとして手をこまねいている敬四郎を、じろり、じろりと、微笑とともに見ながめながら、次のふろしき包みの精査に取りかかりました。
しかし、出てきたものは、いずれも着古したよごれ物、ぼろ切ればかりなのです。きたない手ぬぐいが三本、破れた
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