手甲、脚絆《きゃはん》、それから尾籠《びろう》このうえない女のはだ着……。
「こいつあおどろいたね。この入梅どきだ、よくきのこがはえなかったもんですよ」
「黙ってろ」
「へ……?」
「敬四郎どのと立ち会いのたいせつな吟味だ。おまえなんぞの出る幕ではないよ」
 でしゃばり伝六、横からでしゃばりかけたのを一言のもとにたしなめながら、さらに名人は丹念に見調べました。はねのけてははねのけて調べていくと、ぱらり、下へ散ったものがある。水天宮さまのが一枚、蛸薬師《たこやくし》のが一枚、浅草観音のが一枚、お祖師さまのが一枚。どれももったいなや、お守り札なのです。――これもまた考えようによってははなはだ重要なネタの一つでした。諸々ほうぼうの護符があるところを見ると、よほどの信心家であるようにも推断されるのです。しかし、その尊いお札がこのようなむさくるしいよごれものの中へ、むぞうさに投げ込んであるところから察すると、必ずしもそうではない、ややもすれば人のひとりふたり、殺しかねまじい女とも考えられるのでした。
 名人の目はいよいよ光を増すと同時に、最後の遺留品たる商売道具の小箱に手がかかりました。
 あけ
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