たん》、右門の右門らしいおくゆかしさを見せながら、穏やかに持ちかけました。
「これなる仕着せの主がおくにとすれば、片そでがふびんなおなつの口なり手なりに残っておった以上、まず十中八、九までおくにが下手人とにらまねばなりませぬ。しかしながら、事は念を入れて洗うがだいじ、てまえ、貴殿よりひと足先にこちらに参るは参りましたが、功名てがら争う心は毛頭ござりませぬ。それゆえ、おくにめ、とうに逐電とは聞いても、足下がこちらへお出向きなさるまではと、なにひとつ洗いたてずにお待ち申しておりました。お番所勤めの役向きは諸事公明正大が肝心、くにの荷物もまだ手をつけずにござります。亭主が知っておることまでも何一つ聞き取ってはおりませぬ。ともども立ち会って吟味いたしとうござるが、ご異存ござりますまいな」
異存はあったにしても、こう持ちかけられては痛しかゆしです。返事のしようもないとみえて、不承不承に敬四郎、座についたのを見ながめると、名人の声はじつにあざやかでした。
「ご異存ござりませねば、てまえ代わって取り調べまする。亭主、神妙に申し立てろよ。上には慈悲があるぜ。くには何歳ぐらいの女じゃ」
「二、二十……
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