んてんはここにござる。これじゃ。しまがらは合いませぬかな」
にこやかに笑って、帳場のわきから取り出したのは、だんだらじまの右筒そでをちぎられた仕着せはんてんでした。
「いかがでござる。合いませぬかな」
「…………」
「いや、お隠しなさるには及びませぬ。貴殿もこれが第一の手がかりとにらんだればこそ、おしらべにお越しでござりましょう。ご入用ならば、手まえには用のない品、とっくりとそでを合わせて、おたしかめなされい」
合わないというはずはない。しまがらも、引きちぎられた破れ口もぴったりと合うのです。
「亭主! 亭主! このはんてんを着ておった女はどこへうせた!」
敬四郎、鬼の首でも取ったような意気込みで、目かどをたてながら駆け込もうとしたのを、
「あわてたとても、もうまにあいませぬ。このはんてんの主は、いっしょに出かけたおくに、とうにもう帆をかけてどこかへ飛びましたよ。それより、話がござる。ごいっしょにおいでなされよ」
静かに制しながら先へたって奥のへやへはいると、そこに血のけもないもののごとくうち震えながらうずくまっていた八文字屋の亭主を前に座を占めて、いかにも功名名利に恬淡《てん
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