、おのずとやることに段がつくんだ。ここへ先回りしていたのが不思議でやしょう。いいや、不思議なはずなんだ。このあっしでせえ、首をひねったんだからね。ところが、聞いてみると、まったく右門のだんなの天眼通にゃ驚き入るじゃござんせんかい。孫太郎虫の元締めは越中屋新右衛門のはずだ、こっちを洗えば麻布くんだりまで先陣争いに行かなくとも、お先の身もとがわかるじゃねえかよ、とね、あっさりいってネタ洗いに来たのがこれさ。御意はどうでござんすかえ?」
「嘲弄《ちょうろう》がましいことを申すなッ。こちらにはちゃんと証拠の品が手にはいっているのだ。能書きはあとにしろ」
にらみつけて奥へ通ろうとしたのを、
「お待ちなされよ。その証拠の品とやらは――」
にこやかに名人が呼びとめると、ずばりといったことです。
「小娘は年のころ十三、四、名まえはおなつ、口にくわえておったか手に握りしめておったかは存ぜぬが、その証拠の品とやらは片そででござらぬか」
「…………」
「いや、お驚きめさるはごもっとも、きのうからきょうへかけて、麻布一円へ呼び商いに出た者は、おなつ、おくに、両人と申すことじゃ。片そでをもぎとられた仕着せは
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