がら調べてみると、なつ、ちか、くに、はつ、うめ、なぞ十二、三人の名まえを連ねた孫太郎虫の売り子たちは、神田《かんだ》旅籠町《はたごちょう》の安宿八文字屋に泊まり込んでいることがわかりました。
「たわけめがッ。お茶なぞ出すに及ばんわい。気に入らんやつじゃ。気をつけろッ」
わけもなくただふきげんにどなりつけて、ひた走りに神田へ駕籠を急がせました。
2
「これはようこそ。雨中を遠くまでお出かけなさいまして、ご苦労でござりましたな」
敬四郎の駆けつけた気勢をききつけて、さわやかに微笑しつつ、その八文字屋の奥から出てきたのは、だれでもないむっつりの右門です。あとから伝六がのこのことしゃきり出ると、これが浴びせたのに不思議はない。
「えっへへ。敬だんな、お早いおつきでごぜえましたな。麻布はたぬきの名どころだ。子だぬきにちゃらっぽこやられたんじゃござんすまいね」
「なにッ。早かろうとおそかろうと、いらぬお世話じゃ。どけッ、どけッ」
「きまりがわるいからって、そうがみがみいうもんじゃねえですよ。知恵箱のたくさんあるだんなと、知恵働きの鷹揚《おうよう》なだんなとは、こういうときになって
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