ののようにいったものです。
「お尋ねはこれでござりましょう。いまかいまかと、お越しになるのをお待ちしていたところでござります」
「なに! その横帳はなんだ」
「身内の売り子の人別帳でござります。麻布で害《あや》められたとか申しましたなつの身もとをお詮議《せんぎ》にお越しであろうと存じますゆえ、お目にかけたのでござります」
「気味のわるいことを申すやつじゃな、どうしてそれがあいわかるか!」
「えへへ。あっしがそれとにらみをつけたんじゃござんせぬ。つい先ほど右門のだんなさまがのっそりとおみえになりまして、この人別帳をおしらべなすった末に、あとからいまひとりこれに用のある同役が参るはずじゃ、親切に応対してあげい、とのことでござりましたゆえ、いまかいまかとお待ち申していたのでござります」
せつなに、敬四郎のあばたがゆがんで、ふるえて、目に険しい色がみなぎり渡りました。
来ていたのである! まんまと先手を打ったつもりでいたのに、どうしてそれと眼をつけたか、あざやかにも名人右門が、すでにもう先手を打って、ちゃんとここへ身もとを洗いに来ていたのである。
「見せいッ」
奪い取るようにして手にしな
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