おふくろと、その兄の宗左衛門《そうざえもん》でござんす」
「闇男本人の友次郎とやらはかかわりないか!」
「あるもないもねえ、友次郎だんななんぞ、もうとっくに死出の旅へお出かけですよ」
「なにッ。この世の人でないと申すかッ」
「ひと月もまえにお死になすったんですよ。それもただ死んだんじゃねえ。お直参が情けないといえば情けない、おかわいそうにといえばおかわいそうに、首をくくって死んだんでござんす。闇男のうわさのひろまったもそれがもと、なつを殺すようになったもそれがもと、なにもかも宗左衛門と友次郎だんなのおふくろが、悪党働きやがったから起こったことなんでござんす」
「どんなわるだくみじゃ」
「どうもこうもねえ、あっしゃ渡り中間だから主筋の悪口いうってえわけじゃござんせんが、お旗本のうちにも、ああいう名ばかりお直参の、うすみっともねえ根性の人がいるんだから、世間はさまざまですよ。もっとも、事の起こりゃただの二百石という貧乏知行のせいですがね。お賄い方なんてえお役向きからしてが、はぶりのいいもんじゃねえ。しかし、ひと粒種の友次郎だんな、いかにも男がようござんしたからね。上役の、お賄《まかな》い方支配|頭《がしら》の、大沢高之進様に、あんまりべっぴんじゃねえお嬢さまがおあんなすって、これがつまりぽうっとなっておしまいなすったんですよ。ほかの殿御はいやじゃ、世の中が二つに裂けても、友次郎さまに添わしてたも、でなければ死にまする、死にますると、命を張ってお見そめなすったのが騒動の起こりとなったんでござんす。さっそく高之進さまがやって来て、もらってくれという、上役のお嬢さまだが、いい男がなにもすき好んで醜女《ぶおんな》といっしょになるがところはねえんですからね。友次郎だんなはいやだという。それならおふくろと親類から説きつけて、ということになって、高之進さまが、伯父御《おじご》の宗左衛門と、おふくろに当たってみたところが、このふたり、欲の皮が突っ張ってるんだ。上役の大沢さまと婿しゅうとの縁を結べば出世も早かろう。知行高もじきふえよう、持参金も千や二千はというんで、なにごとも家門のためだ、器量三年、気心一生、ましてやお嬢さまがお見そめとあれば一生おまえをなめるほどおかわいがりくださるんだから、喜んでお受けしろとばかり、おためごかしをいって、いやがるのをむりやりかってに結納まで取りかわした
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