、おのずとやることに段がつくんだ。ここへ先回りしていたのが不思議でやしょう。いいや、不思議なはずなんだ。このあっしでせえ、首をひねったんだからね。ところが、聞いてみると、まったく右門のだんなの天眼通にゃ驚き入るじゃござんせんかい。孫太郎虫の元締めは越中屋新右衛門のはずだ、こっちを洗えば麻布くんだりまで先陣争いに行かなくとも、お先の身もとがわかるじゃねえかよ、とね、あっさりいってネタ洗いに来たのがこれさ。御意はどうでござんすかえ?」
「嘲弄《ちょうろう》がましいことを申すなッ。こちらにはちゃんと証拠の品が手にはいっているのだ。能書きはあとにしろ」
にらみつけて奥へ通ろうとしたのを、
「お待ちなされよ。その証拠の品とやらは――」
にこやかに名人が呼びとめると、ずばりといったことです。
「小娘は年のころ十三、四、名まえはおなつ、口にくわえておったか手に握りしめておったかは存ぜぬが、その証拠の品とやらは片そででござらぬか」
「…………」
「いや、お驚きめさるはごもっとも、きのうからきょうへかけて、麻布一円へ呼び商いに出た者は、おなつ、おくに、両人と申すことじゃ。片そでをもぎとられた仕着せはんてんはここにござる。これじゃ。しまがらは合いませぬかな」
にこやかに笑って、帳場のわきから取り出したのは、だんだらじまの右筒そでをちぎられた仕着せはんてんでした。
「いかがでござる。合いませぬかな」
「…………」
「いや、お隠しなさるには及びませぬ。貴殿もこれが第一の手がかりとにらんだればこそ、おしらべにお越しでござりましょう。ご入用ならば、手まえには用のない品、とっくりとそでを合わせて、おたしかめなされい」
合わないというはずはない。しまがらも、引きちぎられた破れ口もぴったりと合うのです。
「亭主! 亭主! このはんてんを着ておった女はどこへうせた!」
敬四郎、鬼の首でも取ったような意気込みで、目かどをたてながら駆け込もうとしたのを、
「あわてたとても、もうまにあいませぬ。このはんてんの主は、いっしょに出かけたおくに、とうにもう帆をかけてどこかへ飛びましたよ。それより、話がござる。ごいっしょにおいでなされよ」
静かに制しながら先へたって奥のへやへはいると、そこに血のけもないもののごとくうち震えながらうずくまっていた八文字屋の亭主を前に座を占めて、いかにも功名名利に恬淡《てん
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