ぜ、ね、ちょいと。またやかましくしゃべってうるせえですかい」
まったく、こやつにかかってはかなわない。鳴ったかと思えばきげんが直り、直ったかと思えば途方もなく浮かれだして、口やかましくたたいているうちに道は稲荷橋《いなりばし》まで一本道、その中州へ渡って駕籠《かご》もまた早いのです。――橋上に捨てある由。興照寺より届けいでこれあり候とあったその永代橋へたどりついてみると、名人の出馬いまかいまかとかたずをのんで、寺社奉行ご支配の小者たちが群がり集まる群衆を制しつつ、その到着を待ちあぐんでいるさいちゅうでした。
「ご無理願いまして恐れ入ります」
「どうつかまつりまして、お役にたちますならばいつなりと。――念までもござるまいが、石仏は六基ともそのまま手つけずにお置きでありましょうな」
「はッ。たいせつなご詮議《せんぎ》の妨げになってはと存じまして、てまえどもはもとより、通行人どもにも指一本触れさせず、先ほどからずっとこのとおりやかましく追いたてて、お越しをお待ち申していたのでござります」
「それはなにより。てまえの力でらちが明きますかどうか。では、拝見いたしますかな」
軽く会釈しながら近よってみると、なるほど、橋の中ほどの欄干ぎわに、ずらりと六基の石仏が置いてあるのです。いずれも丈《たけ》は五尺ばかりの地蔵尊でした。
しかし、これがただ並べて置いてあるんではない。六体ともに鼻は欠かれ、耳はそがれ、目、口、手足、いたるところ無数の傷を負って、あまつさえ慈悲|忍辱《にんにく》のおつむには見るももったいなや、馬の古わらじが一つずつのせてあるのです。しかも、気味のわるいことには、何がどうしたというのか、その六体の地蔵尊の前に向き合って、いかにも可憐《かれん》らしく小さい小坊主が、ものもいわず、にこりともせず、白衣《びゃくえ》のえりを正しながら、ちょこなんと置き物のようにすわっているのでした。
「ちぇッ。やだね。生きてるんですかい」
見るが早いか、ここぞとばかり、たちまちやかましく早太鼓を鳴らしだしたのはおしゃべり屋です。
「てへへ、おどろいたね。え! ちょいと! なんてまあこまっけえんだろうね。豆に目鼻をけえたにしても、これほど小さかねえですよ。――ね、和尚《おしょう》、豆大将、おまえさんそれでも息の穴が通っているのかい」
「これはいらっしゃい。おはようございます」
「ウ
前へ
次へ
全24ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング