―というように、おどろき怪しみながら、ふり向いたお蘭の美しい泣き顔へ、さわやかに微笑を含んだ名人の声が注がれました。
「だいじょうぶ、幸助殿御から始終のことはもう承りましたよ」
「そういうあなたさまは!」
「むっつりとあだ名の右門でござんす」
「ま……それにしても、そのあなたさまがまた何しにここへ!」
「心配ご無用。幸助どんからおむつまじい仲を聞きましたんでね。いいや、あんたへ届けるはずの仕掛けしごきが人手に買われて、どうやらその買い主が文《ふみ》を種にあんたをおどしつけていやしねえかとにらみがついたんで、ちょっくらお見舞いに来たんですよ。泣いていたは、にらんだとおりそいつの手がもう回ったんでしょうね」
「そうでござりましたか! それで何もかもはっきり納得が参りました。まちがえて人手に買われたら買われたと、どのようにでもしてひとことそれをわたくしにお知らせくだされば、手だても覚悟もござりましたものを、いきなりさる男がやって参りまして、不義密通の種があがったとおどしの難題言いかけられましたゆえ、どうしようとお宿下がりを願って、このように生きたここちもなく取り乱していたのでござります」
「
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