込んでいたところを見ると椋鳥《むくどり》ゃおおぜいさんかもしれねえや。かまわねえから、ほっときな」
「だ、だいじょうぶですかい」
「いま騒ぎだしゃ、えさがなくなるじゃねえかよ。草香流が節鳴りしてるんだ。こわきゃ先へ飛ばしな」
ゆうゆうとうち乗ったまま急がせて、ほどなく乗りつけたところは、並木町のかどのかざり屋から三軒めの、お蘭が宿下がりしているというそのしもた屋です。――同時でした。見えがくれにつけてきた足早男が、ちらりとそれを見届けるや、いっさんにまたいずれかへ姿を消しました。
「ウフフ。おいらを相手に回して、古風なまねをしていやがらあ、久しぶりにあざやかなところを見せるかね。ついてきな」
おどろきもせず、案内も請わずにずかずかはいっていくと、しいんと家のうちが静まり返っているのです。――と思われたその静かな屋内の奥から、よよとばかりに忍び泣く女のすすり音がきこえました。
声をたよりに奥へはいってみると、へやは内庭にのぞんだ離れの六畳。見る目も婉《えん》にくずおれ伏して、ひとりしんしんと泣きつづけていたのは、ひと目にそれとわかるお蘭です。
「おどしの手がもう回ったね」
えッ―
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