やっぱりね。おどしのその相手は、いったい何者でござんす」
「それが、じつは少し――」
「だいじょうぶ! おいらが乗り出したからにゃ、力も知恵も貸しましょうからね。隠さずにいってごらんなせえよ。どこのだれでござんす?」
「めぐりあわせというものは不思議なもの、もと同じ加賀様に仕えて、二天流を指南しておりました黒岩清九郎さまとおっしゃるかたでござります」
「やっぱり二本差しだったね。どうしてまたそやつの手にはいったんですかい」
「それも不思議なめぐりあわせ、じつは黒岩さまが今のようなご浪人になったのも、家中のご藩士をふたりほどゆえなくあやめたのがもとなのでござります。さいわい、その証拠があがりませなんだゆえ、ご処分にも会わず浪人いたしまして、今はここからあまり遠くもない下谷|御徒町《おかちまち》に、ささやかな町道場とやらを開いてとのことでござりまするが、そのご門人衆のひとりの姪御《めいご》さんとやらが買ったしごきの中に、わたくしあての恥ずかしい文があったとやらにて、不審のあまり清九郎さまに見せましたところ、同じ家中に仕えていたおかたでござりますもの、わたくしの名を知らぬはずはござりませぬ。
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