ちっとおそまつだ。番頭か手代とにらんだが、違ったか!」
「…………」
「はきはき返事をしろい! 気はなげえが、啖呵《たんか》筋が張りきっているんだ。おまけに、この雨じゃねえか、しっぽりぬれるには場所が違わあ、手間ア取らせねえで、はっきりいいなよ!」
「恐れ入りました。いかにもおめがねどおり、紅屋の手代幸助と申す者でござります」
「と申す者でござりますだけじゃ恐れ入り方が足りねえや。うちで染めて売ったしごきを、こんなにたくさんの人まで使ってとり返すからにゃ、ただのいたずらじゃあるめえ。二度売りやってもうけるつもりだったか」
「ど、どうつかまつりまして、そんなはしたない了見からではござりませぬ。じつは、ちとその――」
「なんだというんだよ」
「ひとに聞かれますると人命にかかわりますることでござりますゆえ、できますことならお人払いを――」
「ぜいたくいうねえ! 啖呵《たんか》のききもいいが、よしっ引き受けたとなりゃ、人一倍たのもしいおいらなんだ。人命にかかわるならかかわるように、おいらが計ってやらあ。何がどうしたというんだよ」
「弱りましたな。じつは、ちと恥ずかしいことでござりますゆえ、いい
前へ 次へ
全50ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング