づきの同心で、町方とは全然なわ張り違いであるばかりではなく、事いやしくもこの山内において突発した以上は、吟味、詮議《せんぎ》、下手人の引き渡し、大小のことすべてこの一円一帯を預かるお山同心にその支配権があったからです。――さればこそ、名人はいたっていんぎんでした。
「ご不審はごもっとも至極、てまえはこれなる巻き羽織でも知らるるとおり、八丁堀の右門と申す者でござる」
「おお、そなたでござったか! ご評判は存じながら、お見それいたして失礼つかまつった。では、この町人たちもなんぞ……?」
「さようでござる。ちと詮議の筋あるやつら、てまえにお引き渡し願えませぬか」
「ご貴殿ならば否やござらぬ。お気ままに」
「かたじけない――」
 ずかずかと年若いその町人のそばへ歩みよると、いつものあの右門流です。ぎろりと鋭く上から下へその風体をひとにらみしたかと見えるや、間もおかずに、ずばりとすばらしいずぼしの一語が飛んでいきました。
「きさま、紅屋の手代だな!」
「えッ――」
「びっくりしたっておそいや! 指だよ、指だよ。両手のその指の先に、藍《あい》や江戸紫のしみがあるじゃねえかよ。せがれにしちゃ身なりが
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