や、申しましょう。そういうおことばならば申しまするが、じつはその少々人目をはばかる不義の恋をいたしまして――」
「なんでえ! また色|沙汰《ざた》か。おいらがひとり者だと思って、意地わるくまたおのろけ騒動ばかし起こしゃがらあ。相手の女はどこのだれだよ」
「加賀家奥仕えのお蘭どのでござります」
「へえ。つやっぽい名まえが出りゃがったな。お蘭しごきのご本尊さまが相手かい。それにしても、この騒ぎはどうしたというんだよ」
「どうもこうもござりませぬ。お蘭とてまえは一つ町に育った幼なじみ。向こうは加賀家のお腰元に、てまえは染め物いじりの紅屋さんへ――」
「分かれて色修業に奉公しているうち、とんだほんものの色恋が染め上がったというのかい」
「というわけではござりませぬが、やはり幼なじみと申す者はうれしいものでござります。いつとはなしに思い思われる仲になりましたなれど、てまえはとにかく、お蘭はおうせもままならぬ奥勤め。文《ふみ》一つやりとりするにも人目をはばからねばなりませぬゆえ、お蘭どのが思いついてくふうしたのが、このお蘭しごきでござります。と申せばもうおわかりでござりましょうが、ひと重のしごきを
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