らをやりだして、なんのことですかよ。――よせやい。酔っぱらい。ぶつかるなよ。でも、いいこころもちだね。えへへへ。花は散る散る、伝六ア踊る。踊る太鼓の音がさえる、とね。――よッ。はてな」
 ぴたりと鳴り音を止めて、ややしばしわが目を疑うように見守っていたけはいでしたが、とつぜんけたたましい声をあげました。
「いますぜ! いますぜ! ね、ね、ちょっと! お蘭しごきが二十本ばかり。大浮かれに浮かれていやがりますぜ」
 おどろいたのも無理はない。ひとり、ふたり、三人、五人、いや、全部ではまさしく二十四人、その二十四人のお腰元たちが、丘を隔てて真向こうの桜並み木のその下に、加賀家ご定紋の梅ばち染めたる幔幕《まんまく》を張りめぐらしながら、いずれもそろって下町好みの大振りそでに、なぞのしごきのお蘭結びを花のごとくにちらちらさせて、梅ばちくずしのあの手ぬぐいを伊達《だて》の春駒《はるごま》かぶりにそろえながら、足拍子手拍子もろとも、いまや天下は春と踊り狂っていたからです。しかも、この踊りがまた尋常でないのでした。夜ごとのお屋敷勤めにきょうばかりは世間晴れての無礼講とあってか、下町好みのその姿のごとく
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