ねえとあぶねえぜ」
「冗、冗、冗談じゃねえんですよ。くやしいね。なんとかしておくんなさいよ」
「おいらは知らねえよ。伝だんなじゃねえんだからな。ウフフ」
「くやしいね! なんてまた薄情なこというんでしょうね。こういうときにこそ、主従の縁《えにし》じゃねえんですかよ! ちくしょうめッ。こんなことになるくれえなら、歌なんぞよまなきゃよかったんだ。いらぬ告げ口しやがってとあるな、おらが今だんなに話したお蘭しごきの一件にちげえねえが、どうしてまたおしゃべりしたことをかぎつけやがったんでしょうね」
「ご苦労さまに、毎日毎夜どこかそこらで見張っていたんだろうさ。今夜もおそらく、あとをつけてくるだろうよ。どうやら、本筋になりやがった。性根をすえてついてきな」
「だ、だ、だいじょうぶですかい」
「忘れるねえ! 久しくお使いあそばされねえので、草香流が湯気をたててるんだッ。よたよたしねえで、ちゃんと歩いてきなよ」
 こともなげに言い捨てながら、ぶきみなその脅迫状を懐中にすると、何をにらんでのことか、名人右門は駕籠《かご》にも乗らずに、その場からさっさと京橋を目ざしました。

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「お、お、お
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