そのうえに左封でした。――左封はいうまでもなく果たし状か脅迫状か、いずれにしても不吉を物語っている書状です。
「いけねえ! いけねえ! だんなッ、は、早く来てくださいよ! 変なものが舞い込みやがったんだ。気味のわりいものが飛び込んできたんですよ! は、は、早く来ておくんなせえよ!」
 けたたましく呼びたてて、名人のうしろからこわごわ背伸びしながらのぞいてみると、まさにそれは脅迫状でした。
「出すぎ者めがッ、いらぬ告げ口しやがって、ただはおかぬぞ。じゃまだてするなら、こちらにも覚悟があるから、さよう心得ろ」
 達筆にそう書いた脅迫状なのです。投げ込んでいった者はまぎれもなく町人風のことばつきだったのに、不審なことにも脅迫状のその差し出し人は、たしかに二本差しと思われる文面なのでした。
「ウフフ。おっかねえぜ」
「いやですよ! 気味のわりい。だんなまでがいっしょになっておどすとは、なんのことですかよ。名あてはねえが、おらがによこしたもんでしょうかね」
「あたりまえさ。伝だんなとやらがこのうちにふたりおるなら知らぬこと、そうでなけあおまえさんだよ。さよう心得ろとあるから、さよう心得てい
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