や妹も、それと思わしき若い女の名まえは見当たらないのです。
「まかり帰る! ご接待ご苦労でござった」
さっと立ち上がると、あっけにとられている寺僧どもをしり目にかけながら、さっそうとして待たせてあった駕籠にうち乗るや、間をおかずに命じました。
「牛込じゃ。宗山寺へ乗りつけい!」
いわずと知れたその宗山寺こそは、第二の目あてたる小林玄竜の受け寺なのである。
早い! 早い! 河童《かっぱ》坂をひと飛びに乗りきって、目ざした弁天町のその宗山寺へ息づえを止めさせると、
「許せよ」
ずいと通っていって、ことばもおごそかに小坊主へ浴びせかけました。
「住職に申しつけい。八丁堀同心近藤右門、吟味の筋あって寺社奉行さまのお許しこうむり、寺帳改めにまかり越した。そうそうに持参させい」
はっとばかりに平伏しながら小坊主が立ち去るやまもなく、入れ違いに住職が伺候してうやうやしくさし出したその受け帳をしらべてみると、――あるのです! あるのです!
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小林玄竜 四十三歳。左京流|小太刀《こだち》、ならびに山住流含み針指南。
同妻、かね三十八歳。
同娘、菊代、十
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