っているんだ。大園寺だよ! 大園寺だよ! おいらもう尾っぽを巻いて小さくなっているから、ひとっ走りにやってくんな」
 走らせて景気よく永住町のその大園寺へ乗りつけると、ものごし態度の鷹揚《おうよう》さ、あいさつ口上のあざやかさ、まことにみずぎわだった男ぶりです。
「許せよ。八丁堀同心近藤右門ちと詮議《せんぎ》の筋があるゆえ、寺社奉行さまのお許しうけてまかり越した。遠慮のう通ってまいるぞ」
 不意の来訪にめんくらいながら、うちうろたえている小坊主たちをしり目にかけて、ずかずかと方丈の間へ通っていくと、貫禄《かんろく》ゆたかにどっかと上座へ陣取りながら、なにごとか、なんの詮議かというように怪しみ平伏しつつ迎え入れた方丈をずいと眼下に見下して、おのずからなる威厳もろとも、ずばりといったことでした。
「そちが住持か。役儀をもって、申しつくる。当寺の寺帳そうそうにこれへ持てい」
「はっ。心得ました。お役目ご苦労さまにござります。これよ、哲山。そそうのないように、はよう持参さっしゃい」
 うやうやしくさし出したのを受け取って、目あての太田五斗兵衛の人別を巨細《こさい》に調べたが、しかしいない! 娘
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