が、寺帳とはまた初耳だ。そんなものを調べたら、何のなにがし、娘が何人ござりますと、現世に生きている人間の人別がいちいちけえてあるんですかい」
「気をつけろ。お番所勤めをする者が、寺帳ぐれえをご存じなくてどうするんかい! 江戸に住まって江戸の人間になろうとするにゃ、ご藩士ご家中お大名仕えの者はいざ知らず、その他の者は、士農工商いずれであろうと、もよりもよりのお寺に人別届けをやって、だれそれ子どもが何人、父母いくつと寺受けをしてもらわなくちゃならねえおきてなんだ。さればこそ、まず四ツ谷から手始めに太田五斗兵衛のだんな寺へ押しかけて、やつに娘があるか、若い女の身寄りがあるか、その人別改めをするというのに、なんの不思議があるかよ。しかも、そのお寺までちゃんともう眼がついてるんだ。永住町なら町人は妙光寺、お武家二本差しなら大園寺と、受け寺がちゃんと決まっているよ。おいらの知恵がさえだしたとなると、ざっとこんなもんだ。どうです、あにい! 気に入ったかね」
「ちきしょう。大気に入りだ。あやまったね。恐れ入りましたよ。さあこい! 矢でも鉄砲でももうこわくねえんだ。駕籠屋! 駕籠屋! 何をまごまごとち狂
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