林|玄竜《げんりゅう》、それから下谷竹町の三ノ瀬《せ》熊右衛門《くまえもん》と、たった三人しきゃいねえんだよ。くやしいだろうが、この紅絹《もみ》の袋をよく見ろい。持ち主のあたしはかくのとおり色香ざかりの若い女でござりますといわぬばかりに、憎いほどにもなまめかしくまっかで、そのうえぷーんといいにおいのおしろいの移り香がするじゃねえかよ。ひと吹きで大の男をのめらした手並みから察するに、おそらく下手人は今いった三人のうちのどやつかから一子相伝の奥義皆伝でもうけた娘か妹か、いずれにしても身寄りの者にちげえねえんだ。かりにそれが眼《がん》ちげえであっても、流儀の流れをうけた内弟子《うちでし》か門人か、どちらにしても、近親の若い女にちげえねえよ。ちげえねえとするなら、まず事のはじめに三人のやつらの家族調べ、人別改めをやって、下手人とにらんだ若い女のあるやつはどこのどれか、その眼をつけるが先じゃねえか。それをするなら寺だ。お寺だ。お寺の寺帳を調べてみたら、てっとり早くその人別がわかるはずだよ。どうだい、あにい。まだふにおちませんかね」
「はあてね。寺帳とね。亡者《もうじゃ》調べの過去帳なら話もわかる
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