九歳。
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 その名もなまめかしく菊代、十九歳としてあるのです。同時に、莞爾《かんじ》として笑《え》みがのぼると、さわやかな声が放たれました。
「住持! 玄竜の所が見えぬようじゃが、これはなんとしたのじゃ」
「なるほど、ござりませぬな。いかい手落ちをいたしまして、あいすみませぬ。じつは、よくひっこしをいたしますおかたで、近ごろもまたお変わりのようでござりましたゆえ、あとから書き入れようと存じまして、ついそのまま度忘れいたしましたのでござります」
「お上にとってはたいせつな人別帳じゃ。以後じゅうぶん気をつけねばあいならんぞ。移り変わったところはどこじゃ」
「目と鼻の弁天町のかどでござります」
「手数をかけた。――じゃ、あにい!」
 がらりと江戸まえの伝法に変わると、シュッシュッと一本|独鈷《どっこ》をしごきながら、はればれとしていったことです。
「眼《がん》に狂いのねえのが自慢よ。相手はとにもかくにも道場だ。十手もいるが、命も七、八ついるかもしれねえぜ。こわかったら、小さくなってついてきな」
 ものもいえないほどに意気張りだした伝六をうち従えながら、ゆうぜんとして訪
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