思ったとおり申しあげたんですよ」
「そのことば、うそじゃあるめえな」
「いまさらうそなんぞいってなりますものか! あの橙の頼み手を知っているものは、この広い世の中でうちの親分がたったひとりなんだ。その親分が殺されたとなりゃ、わっちらにとっても頼み手の野郎はもうかたきですよ。かたきならば、隠すどころか、何もかも申し上げて、ことのついでにあっしどもも仕返しがやりてえんだ。いいますよ! いいますよ! 知っておったら隠さずに申しますよ!」
「なるほどな。そうと事が決まりゃ、ひと知恵絞らざなるめえ。正月そうそう飛び歩くのはぞっとしねえが、しかたがねえや。では、ひとつ右門流のあざやかなところをお披露《ひろう》してやろうよ」
いいつつ、あごをなでなで、片手でしきりとあの紅絹《もみ》の袋をもてあそんでいましたが、――せつな! なにごとか思いついたとみえて、フフンというように軽く微笑すると、じつに不意です。ずばりとあざやかなその右門流が飛び出しました。
「急がなくちゃならねえ! ひとっ走り、伝六、寺社奉行さまのところへ行ってきな」
「フェ……?」
「何をとんきょうな返事しているんだ。寺社奉行さまのとこ
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