ろへ大急ぎに行ってこいといってるんだよ。行きゃいいんだ。まごまごしねえで、はええところ行ってきなよ!」
「行きますよ! 行きますよ! そんなにつんけんとおっしゃらなくとも、行けといやどこへだって行きますがね。それにしても、やにわと途方もねえ、寺社奉行さまなんぞになんのご用があるんですかい」
「お町方とはお支配違いのお寺で少しばかり調べ物をしなくちゃならねえから、踏むだけの筋道を踏んでおかなくちゃならねえんだ。八丁堀同心近藤右門、いささか子細がござりましてご差配の寺改めをいたしとうござりますゆえ、お差し許し願いとうござりますとお断わりしてくりゃいいんだよ。行く先ゃ四ツ谷からだ。おいら、ひと足先にあっちへいって、四ツ谷ご門のところに待っているからな。ほら、駕籠代の一両だ。残ったら、あめでも買いな」
「…………?」
「何をいつまでひねってるんだ。行けといったら、とっとと行きゃあいいんだよ。――ねこ伝身内の奴さんたちもおさらばだ。正月そうそう仏を出して縁起でもなかろうが、因縁ならしかたもあるめえ。ねんごろに葬っておやりよ」
 紅絹の袋から寺社奉行へ、寺社奉行からまた四ツ谷ご門へ、なんのかかわり
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