に引っ返していった伝六を見送りながら、名人はそこの横路地の中に身を忍ばせて、様子やいかにと待ちうけました。

     2

 こがらし冷たい寒ながら、にかにかと日が照りだして、小春日といえば小春日のほどのよい七草びよりです。――待つほどに首尾よくいったとみえて、気早にもあの三宝の飾り橙《だいだい》までもこわきにしながら、おおいばりでその伝六が姿を見せました。
「どうやら、つじうらは上吉らしいな。珍しく気がきいているようだが、橙までも持ってきて、ホシの眼《がん》はついたかい」
「大つき大つき! あっしだっても、たまにゃてがらをするときだってあるんだ。いえ、なにね、こうなりゃもう締めあげるにしても何をするにしても、このなぞなぞの七つ橙が大慈大悲の玉手箱なんだからと思って、ご持参あそばしたんですよ。さっそくあの野郎をさそい出して、うまいことカマをかけたらね――」
「手もなくどろを吐いたか!」
「大吐きですよ。お番所勤めをしている者がばくちをやるといっちゃ聞こえがわるいが、そこはそれ、お釈迦《しゃか》さまのおっしゃるうそも方便というやつさアね。あの三下奴をちょいと向こうかどまで連れていってね
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