がら、不意に伝六を五、六間向こうへいざなっていくと、三人の町奴《まちやっこ》たちをあごでさし示しつつ、そっとささやきました。
「あいつを見ろよ。ね、ほら、変な物をいじくっている野郎がいるよ。あれをよく見ろな」
「なんです? どれです? あいつとはどれですかい」
「子分だよ。あの左に立っている子分の野郎が、目をつりあげやがって、出したり入れたり手のひらの上でさいころをいじくっているじゃねえかよ。上役人のおいらがお出ましになっているのもかまわねえで、はばかりもなくコロいじりをしているぐあいじゃ、よくよくあの三下奴め、あれが好物にちげえねえんだ。好きなものにゃ目がねえというからな、おめえ、うまいことあいつを誘い出して、じょうずに何かコロのにおいでもかがせてから、それとなくどろを吐かしてみなよ」
「なるほど、打ち出の小づちにちげえねえや。目もはええが、あとからあとからと知恵がふんだんにわき出すからかなわねえね。ようがす。カマをかけてどろを吐かせる段になると、これがまたおいらのおはこなんだからね。ちょっくら吐かしてめえりますから、どこかその辺の小陰にかくれて、あごでもなでていなせえよ」
 得意顔
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