さしく男でした。しかるに、これが少しおかしいのです。十中十まで捨て子をするには、それが長い昔からのお定まりであるかのごとく、あとあとへの目印と証拠になるべきお守り札に、少なくも着替えの一、二枚は必ず添えてあるのが普通なのに、どうしたことか、いぶかしいその捨て子には、いっこうにそれらしい品が見当たらないのでした。のみならず、子どもそのものにも不思議な相違が見えました。左に寝かされている男の子のほうは、まるまると肥だちもよくて、ずきんから着物にいたるまでひと目に裕福な良家の生まれらしい節々が見えましたが、右に寝かされている女の子のほうは見るからにやせ細って、そのうえに着物も継ぎはぎだらけの洗いざらしなのです。
 ――せつな! 名人の目がきらりと光るや、同時にさえまさった声があいきょう者のところへ飛びました。
「抱いているその子も、いっしょに並べてみい!」
「え……?」
「おまえの抱いている赤ん坊も、そこへもういっぺん寝かせといってるんだよ」
「情なしだな。せっかく拾ったものを、また捨てるんですかい」
「文句をいうな。早くしたらいいじゃねえかよ」
「へいへい。お悪うござんした。並べましたよ。
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