。ね、ご隠居! おたげえ人の親だが、いくら貧乏したっても、おいらは子を捨てる気にゃならねえんですよ。え? ご隠居。ご隠居さんはそう思いませんかい」
「さようさよう。しかればじゃ、世の戒めにと思ってな、さきほどから一首よもうと考えておるのじゃが、こんなのはどうかな。朝早く橋のたもとに来てみれば、捨て子がありけり気をつけろ――というのはいかがじゃな」
「あきれたもんだ。油が抜けると、じき年寄りというやつは、歌だの発句《ほっく》だのというからきれえですよ。でも、子どもはまったく罪がねえや。捨てられたとも知らねえで、にこにこしながら、あめをしゃぶっておりますぜ」
 憤慨する者、同情する者、目にたもとをあててもらい泣きする女たち、――それらのささやきかわし、嘆きかわしているさまざまの物見高い群衆を押し分けながら、名人は面をかくすようにして近づくと、何をするにもまずひと調べしてからというように、いつものあの鋭いまなざしで、じろりじろりと残っているふたりの捨て子を見ながめました。――年のころはいずれも二つくらい。ひとりはどうやら女らしく、あとのひとりは伝六がいまだにまごまごして抱いているのと同様、ま
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