た。
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「ただいまつじ番所より急達これあり、奇怪なる事件突発いたしそうろう。
練塀《ねりべい》小路|榎《えのき》妙見境内にて一人。
柳原《やなぎわら》髭《ひげ》すり閻魔《えんま》境内にて一人。
右二カ所に、いずれも禄《ろく》持ち藩士とおぼしき人体の者ども、無残なる横死を遂げおる由内訴これありそうろう条、そうそうにお手配しかるべく。右取り急ぎ伝達いたしそうろう」
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「ちぇッ、おどろいたね――」
 伸びあがってじろりとうしろからそのお差し紙をのぞき見しながら、たちまち首をあげたのはわが親愛なる伝六でした。
「なんてまたはええだろうな。こんなに早くご番所へご注進が飛んでいったところをみるてえと、こりゃどうも大騒動ですぜ。それに、見りゃ妙見堂とお閻魔さまとふたところじゃござんせんか。まさかに、あっしのお目にかかった練塀小路の死骸《しがい》が、ひとりでに柳原まで浮かれだしていったんじゃありますまいね。え? ちょいと、だんな。――おやッ、かなわねえな。ね、ちょいと、[#「ね、ちょいと、」は底本では「ねちょいと、」]だんな。急にまたどうしたんですかい。ね
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