すぐにも出動するだろうと思われたのに、それからふたたびごろりとなって、ようやくあごをなでなで起き上がったのが深夜のちょうど九ツ。いんにこもってボーンボーンと時の鐘が打ちだされたのを耳にするや、物静かに手をたたいて呼び招いたのは、さきほどからの青道心でした。
「なんぞご用でも?」
「ちと承りたいことがござる。当山は悪魔退散邪法|調伏《ちょうぶく》の修法《すほう》をつかさどる大道場のはずゆえ、さだめしご坊たちもその道のこと詳しゅうご存じであろうが、ただいま江戸にて丑《うし》の時参りに使われる場所は、どことどこでござる」
「なるほど、そのことでござりまするか。丑の時参りは、てまえども悪魔調伏の正法を守る者にとりましては許すことのかなわぬ邪法でござりますゆえ、場所も所も知らぬ段ではござりませぬ。まず第一は練塀小路の妙見堂、つづいては柳原のひげすり閻魔《えんま》、それから湯島坂下の三《み》ツ又《また》稲荷《いなり》、少しく飛びまして本所四ツ目の生き埋め行者、つづいては日本橋|本銀町《もとかねちょう》の白旗|金神《こんじん》なぞ五カ所がまず名の知れたところでござります」
「よく教えてくれました。い
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