ろいろおもてなしにあずかってかたじけない。些少《さしょう》でござりまするが、お灯明《とうみょう》料にご受納願いとうござる」
包んで出したのはやまぶき色が三枚。ひと寝入りするにもそつのないところが名人です。懐中離さぬ忍びずきんにすっぽり面をかくしてお山を下ったのがちょうど九ツの鐘の打ち終わったときでした。と同時のごとく目にはいったものは、町々つじつじを堅めているものものしい捕方《とりかた》たちの黒い影です。
「はあてね、あば敬が何か細工したんでしょうかね」
くるっと七三にからげて飛び出していったかと見えたが、ときどき伝六も存外とすばしっこく立ちまわることがあるとみえて、てがら顔に駆けもどってくると、事重大というようにぶちまけました。
「いけねえ! いけねえ! まごまごしちゃいられませんぜ。あそこのかどに張っていた雑兵《ぞうひょう》をうまいことおだてて聞き出したんだがね、あば敬大将はあの下手人をのどえぐり修業のつじ切りだとかなんだとかおっかねえ眼《がん》をつけてね、お番所詰めの小者からつじ役人にいたるまでありったけの捕《と》り方《かた》を狩り集めて、江戸じゅうの要所要所に捕《と》り網を
前へ
次へ
全69ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング