見えますかね」
「なんと見ようもねえじゃねえか。ただの帯だよ。二分も持っていきゃ十本も買える安物じゃねえか」
「でしょう。だから、あっしゃどうにもがてんがいかねえんですがね。だんなはいったいこの帯が人を殺すと思いますかね」
「変なことをいうやつだな。殺したらどうしたというんだ」
「いいえね。殺すかどうかといって、おききしているんですよ。どうですかね、殺しますかね。このとおりもめんの帯なんだ。刃物でもドスでもねえただのこのもめんのきれが、人を殺しますかね」
「つがもねえ。もめんのきれだって、なわっきれだって、りっぱに人を殺すよ。疑うなら、おめえその帯でためしにぶらりとやってみねえな。けっこう楽々とあの世へ行けるぜ」
「ちぇッ、そんなことをきいてるんじゃねえんですよ。首っくくりのしかたぐれえなら、あっしだっても知ってるんだ。だらりとね、もめんのきれがさがっている下に、人間の野郎が死んでいるんですよ。大の男がね、それもれっきとしたお侍なんだ。その二本ざしが、のど笛に風穴をあけられて、首のところを血まみれにしながら冷たくなっているんですよ。だからね、あっしゃどうにもその死に方が気に入らねえんだ
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