れも、玄関前の軒下の梁《はり》のところへ、だらりと兵児帯《へこおび》をつりさげて、その下にぼんやりと腕組みしながら、しきりと首をひねっているのです。
「バカだな――」
「…………」
「なんて気のきかねえまねしてるんだ」
「…………」
「ね、おい大将。何しているんだよ」
だが、返事がない。振り向きもせずに、だらりとつりさがっている兵児帯を見てはひねり、ひねっては見ながめている様子が、さながら死のうか死ぬまいかと思案でもしているかっこうそっくりでしたので、名人も少しぎょッとなりながら呼びかけました。
「知らねえ人が見りゃびっくりするじゃねえか。死にたくなるがらでもあるめえに、寝ぼけているんだったら目をさましなよ――」
どんと背中をたたかれたのに、どうも様子が変なのです。のっそりとうしろを振り向きながら、上から下へ名人の姿をじろじろと見ながめていましたが、とつぜん、やぶからぼうに、ねっちりと妙なことをいいだしました。
「つかぬことをお尋ねするんだがね――」
「なんだよ。不意に改まって、何がどうしたんだ」
「いいえね、この梁《はり》からだらりとさがっている帯ですがね、だんなにはこれがなんと
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