がな。ほんとうに、どうするか覚えてろッ。――おやッ。いけねえ。いけねえ」
 急に日本晴れとなりながら、ばたばたと駆けだしていったかと見えたが、まもなく抜き足さし足でもどってくると、事重大とばかりに目を丸めながら、声を落としてささやきました。
「ね、いるんですよ。大将がうちの表にまごまごしておりますぜ」
「敬公か」
「ええ。ねこのように足音殺しながらやって来やがってね。表からそうっと、うちの様子をうかがっているんですよ。ね、ほら、あれがそうですよ。あのかきねのそばにいるのがそうですよ」
 からだを泳がしてのぞいてみると、なるほど、それこそはまさしく同僚あばたの敬四郎とその配下ふたりです。まことに久方ぶりの対面というのほかはない。だが、いつまでたってもこの心がけよろしからざる同僚は、依然としてその了見が直らないと見えて、ぴったりかきねのそばへ身を寄せながらしきりとこちらの様子をうかがっていたので、それと知るや、名人はさっそうとして立ち上がりざま、吐き出すようにいいました。
「うすみっともねえったらありゃしねえや。伝六あにいのおしゃべりと、あば敬だんなのあの根性は、刀|鍛冶《かじ》にでもかけ
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