てたたき直さなきゃ直らねえとみえるよ。けんかになっちゃなるめえと思ったからこそ、わざわざおもといじりまでもやって、あとからゆっくり行こうと遠慮していたのに、すき見するとはなんのざまでえ。ひとからかい、からかってやるから、ついてきな」
 微笑しながら出ていくと、いたって静かにいったものです。
「これはこれは、おそろいでござりまするな。たいそうご熱心におのぞきのようでござりまするが、うちの庭に温泉でも吹き出しましたかな」
 めんくらったのはあば敬とその一党でした。不意をうたれてまごまごしているのをしり目にかけながら、ゆるやかにあごをなでると、なんと思ったか聞こえよがしに伝六へ命じました。
「練塀小路から先にしようぜ。大急ぎにな、二丁だぜ」
 ひらり乗るといっさん走り。――あとにつづいてあば敬とその一党も、逃がしてならじというように、三丁の駕籠をつらねながら、えいほうと韋駄天《いだてん》に追いかけました。

     2

 かくして、追いつ追われつしながら行くこと十町。
 このまましつこく尾行されたら、少しく事がめんどうになりそうに思われましたが、こういう場合になると、伝六太鼓もなかなかに
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