露払いじゃあるめえし、用もねえのに、わざわざとあばたのところへなんぞ行くがものはねえじゃござんせんか」
「しようがねえな。だから、おれもおめえの顔を見るとものをいいたくなくなるんだ。わからなきゃ、このお差し紙をもう一度よくみろい。名あてがねえんだ。どこにも名あてがねえじゃねえか。おれひとりへのおいいつけなら、ちゃんとお名ざししてあるべきはずなのに、どこを見ても右門の右の字も見当たらねえのは、お奉行さまがこの騒動を大あな(事件)とおにらみなすって、いくらか人がましいあば敬とおれとのふたりに手配りさせようと、同じものを二通お書きなすった証拠だよ。現の証拠にゃ、さっきの小者があば敬の組屋敷のほうへ飛んでいったじゃねえか。ただの一度むだをいったことのねえおれなんだ。見てくりゃわかるんだから、はええところいってきなよ」
「なんでえ、そうでしたかい。それならそうと早くいやいいのに、道理でね、さっきの使いめ、いま一本お差し紙をわしづかみにしていましたよ。ちくしょうめッ、にわかとあごに油が乗ってきやがった。あば敬の親方とさや当てするたア、まったく久しぶりだね。そうと事が決まりゃ気合いが違うんだ、気合い
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