おかたうぬ自身だろう。どうだッ。まさかに眼が狂っちゃいめえがなッ」
「お、恐れ入りました。それまでおにらみがおつきでは、もう隠しだていたしませぬ。いかにも、水いたずらはてまえのしわざにござります」
「油っこいまねするにもほどがあらあ。なんでまた、てめえでてめえの座敷に水まきしたんだ。涼み水なら、まきどころが違うようだぜ」
「ごもっともさまでござります。なにを隠そう、それもこれも――」
「人気をあおる手品の種かッ」
「へえい。つい、その、いいえ、何を申しますにも江戸下りははじめてでござりますゆえ、知らぬ土地ではごひいきさまへ評判とるのも並みたいていなてだてではいくまいと存じまして、ついその水いたずらをしたのでござります。ああして、だれがいたずらするかわからないようにこっそり水をまき、幽霊水の評判がたったところで、わるいことと知りながら、江戸屋はんにぬれぎぬ着せたうえ人気をひとり占めにしようと計ったのがさいわいと申しますか、うまくあたったのでござります。それゆえ、内心ほくほくしておりましたところ、昨晩――」
「二三春が様子探りにでも忍んでいったと申すかッ」
「へえい。かしこいおなごはんでご
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