ざります。てまえのしわざとにらんだものか、夜中近いころ、へやの外までこっそり参りましたところを、ついてまえが見つけ出し、さかねじ食わせて言いとがめておりますうちに――」
「よし、わかった。聞くもけがらわしいや。江戸の女のべっぴんぶりに目がくらんで、手ごめにでもしたというのだろう。どうだ、違うかッ」
「なんとも、面目ござりませぬ。かえって水いたずらの罪を二三春さんとやらにぬりつけ、ないしょにしてやるからとおどしつけ、ついその、なにしたのでござります。重々面目ござりませぬ」
「あたりめえだ。人のお囲い者を手ごめにした野郎に、面目やお題目があってたまるけえ。食いちぎられた小指は、そのときの手ごめ代かッ」
「恐れ入ります。なにを申すも人気|稼業《かぎょう》の芸人でござりますゆえ。穏便なお計らいくださりますればしあわせにござります」
「控えろッ、むしのいいにもほどがあらあ。江戸の女は、お囲い者でも操がいのちのうれしい心意気を持っているんだッ。さればこそ、江戸五郎に面目ねえと、恨みの小指を一枚刷り絵に供えておいて、ゆかしい死に方までしているんだッ。そのうえ、あくどい水いたずらまでもやった者を、どこ
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