騒ぎたったのを、
「八丁堀の右門が不審のかどあって差し止めたのだッ。騒ぐなッ。騒ぐなッ」
 制しつつ、つかつかと三左衛門の身辺に歩みよると、いとも胸のすく伝法なあの啖呵《たんか》がずばりと見舞いました。
「江戸っ子は諸事あっさりしているんだ。このおひざもとで、上方流儀のねちっこいまねははやらねえぜ。のう、三的!」
「不意に、な、な、なんでおまっしゃろな」
「その、なんでおまっしゃろなというせりふがねちっこいんだ。二三春は、ゆかしい死にざまだったよ」
「えッ……!」
「しばいがかったみえをきるなッ。おめえの手の指は、まさかに六本じゃあるめえ。ほうら、みやげだよ。この食いちぎられた小指を、その左手の布を巻いた下にあるあき家へもっていったら、四本の指がねずみ鳴きして喜ぶはずだ。もうこのうえむだなせりふはいう必要もあるめえ。あっさりするんだ、あっさりとな。江戸のごひいき筋は、かば焼きをおあがりあそばすにも油をぬくぞ」
「…………」
「なんでえ。まだ恐れ入らねえとありゃ、――むっつり右門の奥の手出そうか! 草香流は暑くなるとききがいいんだ。手間とらしゃ、ぼきりとお見舞いするぜ。幽霊水の下手人もお
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