ざがしら》嵐三左衛門でした。
「へへえね。ちっとのっぺりして間のびがしているが、嵐の三公なかなかいい男じゃござんせんかい。ちくしょうめ、おれに断わりもなく、江戸の娘っ子がうだるほど来ていやあがらあ。いささかくやしいね」
十八番を始めた伝六にはおかまいもなく、名人はずかずかとその人込みを押し分けて舞台近くに進んでいくと、指やいかにと目を光らせました。と同時に、鋭く射たものは、三左衛門の左手先に巻いてある白い布で、まさしくけがをしている証拠にちがいない。知るや、名人のさえまさった声が、うしろにまごまごとしているあいきょう者のところに飛んでいきました。
「十手だッ、十手だッ、十手の用意をしろッ、ほんとうに大汗かかしやがった。二三春べっぴんがあらましのことでも書き置きに残して死んだら、暑いさなかをこんな苦労せずにすんだんだ。江戸女はとかく渋すぎて手数がかかるよ。用意ができたらついてきな」
ひらり舞台におどり上がると、大喝《だいかつ》一声!
「この狂言差し止めたッ。嵐三左衛門! 神妙にせいッ」
不意をうたれて、当の三左衛門はいうまでもないこと、土間いっぱいの見物たちがわッともみ声あげながら
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