えに、そのまた男雛が、名人のこわきにしてきた問題のまがい雛と、形も同じ、塗りも同じ、着付けの京|金襴《きんらん》の色までがまったく同様同形同色でしたから、名人のことばがさらにさえました。
「あのようにたくさん、どうしたというのじゃ!」
「よく売れるから仕入れたんでございますよ」
「なに! よく売れるとな! それはまた、いったいどうしたというのじゃ!」
「評判というものは変なものですよ。なにしろ、内藤様の古島雛といえば、もともとが見ることも拝むこともできないほどのりっぱな品だとご評判のところへ、あのとおりほかの内裏雛とよく比べてごろうじませ、こちらのまがい雛がまた比較にならんほどずばぬけてよくできておりますんでな、どこから評判がたちましたか、ことしは古島雛のまがいが新品にできたそうだとたいした人気で、どんどん羽がはえて売れるんですよ」
いっているさいちゅうへ、それを裏書きするかのように、景気よく飛び込んできたのは、細ももひき、つっかけぞうりの、きりりとした江戸名物伝法型のあにいです。
「ちくしょうめ、なるほどたくさん並んでいやがるな。おい! 番頭の大将! あのいちばん上にあるやつが古島
前へ
次へ
全49ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング