雛のまがい雛とかいうやつかい」
「へえい、さようで――」
「いくらするんだ」
「ちとお高うございますが……」
「べらぼうめ! 安けりゃ買おう、高けりゃよそうというような贅六《ぜいろく》じゃねえんだ。たけえと聞いたからこそ買いに来たんじゃねえか。夫婦《めおと》一対で、いくらするんだい」
「五両でございます」
「…………」
「あの、五両でございます」
「…………」
「聞こえませんか! 女雛男雛一対が大枚五両でございますよ!」
「でけえ声を出さねえでも聞こえていらあ! ちっと高すぎてくやしいが、五両と聞いて逃げを張ったとあっちゃ、江戸っ子の名に申しわけがねえんだ。景気よく買ってやるから、景気よくくんな」
 入れ違いにはいってきたのが若い娘。
「あたしにも一対ちょうだいな」
 いいつつ、これがまた争うように買って帰ったものでしたから、名人のことばがいよいよさえました。
「なるほど、羽がはえて飛んでいくな。これをこしらえたやつは何者じゃ!」
「それがちと変なんですよ。にせものではございましても、これほどみごとな品を作るからにはさだめし名のある人形師だと思いますのに、だれがこしらえたものか、さっぱ
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