っけんだな》です。――むろん、十軒店はここをせんどと雛人形を飾りつけ、見に来た者、買いに来た者、おひやかし、ぞめき客、通りから横町までずっと人の顔の波でした。
「許せよ」
 その最初の一軒へ、声も鷹揚《おうよう》にずかずかはいっていくと、居合わせた若い番頭の目の前へ、黙ってぬうとさしつけたのは、こわきにしていた問題の偽物雛です。
「これが何か……?」
「扱った覚えがあるかないかときいているのじゃ」
「さてな……? てまえどもの店で商った品かどうかはわかりませんが、たしかにこれは古島雛のまがい雛ですね」
 ちらりと一瞥《いちべつ》するや同時に、なんらのためらいもなく番頭が、一言に古島雛のまがいとホシをさしたものでしたから、当然のごとく名人のことばがさえました。
「だいぶ詳しいようじゃが、どうしてこれを古島雛の偽物と存じておるか!」
「どうもこうもござりませぬ。あのとおり、あそこにもたくさんございますゆえ、ごろうじなさりませ」
 指さされた店の飾り段を見ながめると、こはそもなんと不思議! 同じそのまがい雛が十体ほどもあるのです。しかも、男雛《おびな》ばかりか、女雛《めびな》もそろっているう
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