屋敷から届きました。あまつさえ、中に書いてある文言が、たいそうもなくよろしくないのです。
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「取り急ぎひと筆しめしまいらせそろ。いまだお目もじつかまつらずそうらえども、ご高名はつとに拝承、ぜひにもお力借りたき大事|出来《しゅったい》そうろうまま、すぐさまご入来願わしく、他行お名ざしのことなぞ上辺の首尾については、当方より人をもってご奉行職に申しあげおくべくそうろうあいだ、右お含みおしのびにてご光来わずらわしたく、万事はお目もじのうえにて、あらあらかしこ」
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 書き出しのひと筆しめしまいらせそろというあたり、結句のおしのびにてうんぬんかしこといったあたり、春情春意おのずから整って、いかな君子人が読んだにしても、そのなまめかしさ、いろめかしさ、あきらかに差し出し人は女性であることを物語っていたので、聖人君子にはおよそ縁の遠いわが伝六が、伸び上がり伸び上がりうしろから盗んで読んで、ことごとく猪首《いくび》をちぢめながら、たちまち悦に入ったのは当然でした。
「たまらねえな。陽気がぽかついてくるてえと、ものごとがこういうふうにはずんでくるんだからね。
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