どうです? まあ、この字の行儀のよさというものは――。見ただけでもほれぼれするじゃござんせんか。お将軍さまが召し上がる目刺しだっても、これほど行儀よく頭をそろえちゃおりませんぜ。べっぴんですよ! べっぴんですよ! この字の書きっぷりじゃ、きっと大べっぴんですぜ」
「うるさいよ」
「え……?」
「耳もとでガンガンとうるさくほえるなといってるんだ。おまえのようなあきめくらがのぞいたっても、犬が星をみるようなものなんだから、尾っぽを巻いておとなしくかしこまってな」
「ちぇッ。あきめくらとはなんですかい! なんですかい! いかに伝六が無学文盲だっても、このぐれえの色文なら勘だけでもわかるんだ。これが世間にほまれのたけえ水茎の跡うるわしき玉章《たまずさ》っていうやつなんだ。名は体を表わし、字は色を現わすといってね、さぞおくやしいでござんしょうが、この主はべっぴんですよ」
でないにしても、なよやかにほっそりとした美しい文字のぐあいでは、少なくも若い女性であろうと想像されたのに、しかし名人の目のつけどころ、眼《がん》の働きどころは別とみえて、問題の手紙を裏に返したり表に返したり、と見つこう見つ、し
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