愛孫が一生一度の契りごとにかかわる大事とすれば、おぼれる者のわらのように、必死とわが捕物《とりもの》名人にすがりついたのは無理のないことです。いや、無理がないといえば古島親子のおこったのも大いに無理がない。契りの片雛恋の思い雛が、いつのまにかにせもの偽物にすり替えられていたとすれば、いかさま生きた夫が知らぬまに寝返られ、すり替えられたのと同然だったからです。
「ちとこれは久方ぶりでなまめかしゅうなったかな――」
 いうように、名人は目に微笑を浮かべながら、じろじろと問題の男雛を見ながめていましたが、まず事はそれから確かめるが第一と、至極静かにきき尋ねました。
「では、なんでござりまするな。こちらの雛をお飾りなさるときは、十二年このかた預かっている男雛に相違ないとお思いなすって、お飾りあそばしたのでござりまするな」
「ええ、もう相違ないどころか、形も同じ、着付けも同じ、しまったところも去年のままで、なにひとつ変わった個所も、疑わしいところもおじゃりませんなんだゆえ、娘もわたくしもこれがにせものであろうなぞとは夢にも知らずこうして飾りましたところ、古島のててごさまが不意にびっくりなさいまし
前へ 次へ
全49ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング